大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)880号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕破産会社は昭和三六年五月九日支払を停止し、同年一〇月二日東京地裁で破産宣告を受けた。一方、被告は昭和三六年初頃から同年五月末までの間に、破産会社に対し事業資金を得させるため合計九六二、〇〇〇円の融通手形六通を交付し、破産会社はこれを平和相互銀行深川支店において破産会社代表者林実個人名義で割引き金融を得ていた。ところが破産会社が前記のように支払を停止したので、被告は当時まだ満期の到来していなかつた被告振出の合計八六万円の約束手形五通の返還を受けようとして、右林実と相談のうえ、同年五月一六日被告と訴外横山某が破産会社に対し総額一三〇万円余(うち被告提供分八〇七、一〇〇円)を交付し、破産会社代表者林実が右金員と、実質は破産会社のものであるが同人の個人名義であり、かつ同人名義の平和相互銀行深川支店との手形取引契約の担保となつている同銀行に対する定期預金等合計三一〇万円余をもつて、右手形貸付契約を清算して、同銀行から総額二五七万円余の割引手形の返還を受けた。そして被告は、右林から右割引手形のうち被告振出の融通手形五通(合計八六万円)を受領し、また被告振出の当時満期が到来し被告が支払を終えていた金額一〇二、〇〇〇円の融通手形一通分および右の解約資金の各返済に代えて、盛大食品株式会社振出の約束手形合計九〇九、一〇〇円の交付を受け、その頃右手形金の支払を受けた。原告は、右代物弁済をもつて破産法第七二条一号および二号に該当する行為なりとして、これを否認し、被告に対し右九〇九、一〇〇円の返還を求めた。

判決は、破産会社のした手形貸付契約の解約および割引手形の返還受領行為、その結果として被告への融通手形返還行為をもつて破産債権者を害すべき行為と認め、次のように説いている。曰く、

「右認定の事実を検討してみると、なる程被告の主張するとおり、被告が破産会社に宛てて振出し満期の到来しない融通手形五通の返還を受けたのは、被告と破産会社との間だけで考えれば、融通手形振出の原因となつた振出し委任を含む保証類似の与信契約の解約及びその決済として、破産会社の財産に何らの影響を及ぼさない行為ということができるし、また、被告が破産会社に提供した前記の割引手形の買戻し資金の対価として同会社から交付を受けた盛大食品振出の約束手形のうち、金額八〇万七、一〇〇円分も破産債権者を害するところの弁済ということのできないのは明らかである。しかしながら、仮に、被告らが破産会社に対し資金を供給することなく、破産会社代表者林が同人個人名義の平和相互銀行との手形貸付契約を解約しないまま、割引手形をそのままにしておき、右割引手形(被告振出融通手形を含め)が満期に支払われたうえ、右手形貸付契約が解約されれば、代表者林実個人名義となつている破産会社の平和相互銀行に対する定期預金、定期積金等金額合計三一〇万円余が担保としての拘束を離れ、同銀行からの借受金等の清算が完了した後その大半は破産会社の財産として破産財団に属することとなることもまた極めて明らかである(甲第四号証によると手形貸付は支払停止当時一八三万九、九八〇円であつたことが認められる)。そして、この場合には被告はその振出にかかる前記融通手形五通金額八六万円を満期に所持人に支払つて、破産会社に対しては求償権を破産債権として届出て財団から配当を受けることになろう。従つて、破産会社代表者林実の平和相互銀行との手形貸付契約及び割引手形の返還受領行為(或いは割引手形の買戻し行為)は、破産債権者との関係でみれば破産債権者を害する行為といわなければならない。これを融通手形の振出しの面から考えると、融通手形を振出すのは振出人が受領人からの依頼に基づき手形を振出すことによつて受領人に対し信用を供与するとともに、右手形が割引に出され、他に譲渡されたときには、所持人に対しては振出人として支払義務を負担することを内容とする委託契約を含む信用供与契約を原因とするもので、当事者間においても単なる紙片の交付受領ではない。そして右のような契約は実質は保証委託契約と異ならず(従つて融通手形の振出の趣旨は手形保証である)、振出人が融通手形の受取人、すなわち裏書人に代つて所持人に対し免責行為をした場合には求償権を行使することのできるのは勿論、受取人が破産した場合には通常、融通手形の満期到来前でかつ手形金支払未了のままでも、右の求償権を事前に行使して破産財団に対し配当を要求することができると解すべきである(民法四六〇条一号参照)。これを本件について考えると、被告は破産会社の破産宣告後の求償権を行使し、破産債権の届出をすることにより、右求償権の満足をはかる方法をとるべきであつたにかかわらず、破産会社の支払停止後求償権を消滅させる方法として破産会社代表者林実をして平和相互銀行から取引を解約して被告振出の融通手形の返還ないし買戻しをさせたのである。その結果、被告はその振出にかかる融通手形六通金額九六万二、〇〇〇円(うち一通一〇万二、〇〇〇円については盛大食品の約束手形を代物弁済として取得したことにより)の利得をしたもので、これが破産債権者を害する行為であることは明らかである。そして前記認定のとおり被告は当時支払停止を知つていたのであるから、原告の右各行為の否認は正当といわなくてはならない」。

(浜 秀和)

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